今回は、この道20年のベテラン鍵師、高橋さん(仮名)に、鍵の不調に悩む私たちが、その症状を「修理で直るレベル」なのか、それとも「交換が必要なレベル」なのかを、どのように見極めれば良いのか、プロの視点からお話を伺いました。「お客様から最もよく聞かれる質問の一つですね」と、高橋さんは語り始めます。「簡単な見極め方として、まず『スペアキーで試してみる』という方法があります。いつも使っている鍵だけが回りにくいのであれば、原因は鍵自体の摩耗や変形にある可能性が高い。この場合は、鍵を新しく作り直すだけで解決することがあります。しかし、新品のスペアキーを使っても同じように動きが悪いのであれば、問題は鍵穴、つまりシリンダー側にあると判断できます」。では、シリンダー側の問題は、どこまでが修理で、どこからが交換になるのでしょうか。「鍵穴にホコリが詰まっていたり、潤滑が切れていたりするだけなら、我々がシリンダーを分解して内部を洗浄し、適切な潤滑剤をさせば、見違えるようにスムーズになります。これが『修理』の範囲ですね。しかし、長年の使用で、シリンダー内部のピンやバネといった金属部品そのものが摩耗してしまっている場合は、話が別です」。高橋さんは、使い古されたシリンダーの断面モデルを見せてくれました。「このピンの先端を見てください。新品は平らですが、これは丸く削れていますよね。こうなると、鍵を差し込んでもピンが正しい高さに上がらず、鍵が回らなくなります。部品がここまで摩耗してしまったら、もはや調整で直すことはできません。これが『交換』が必要なサインです。大まかな目安として、設置から10年から15年以上経過している鍵は、修理よりも交換をお勧めすることが多いですね。その方が、結果的に長く安心して使えますから」。最後に、高橋さんはこう付け加えました。「最も重要なのは、不調を感じたら、すぐに我々のようなプロに相談していただくことです。初期段階であれば、簡単な修理で安く済んだはずのものが、無理に使い続けた結果、内部の損傷が拡大し、高額な交換しか選択肢がなくなる、というケースを、私たちは何度も見てきました。鍵は、家の健康状態を示すバロメーターのようなもの。定期的なプロによる診断が、結果的にあなたの財産を守ることに繋がるのです」。