「元鍵(オリジナルキー)は全部なくしてしまったけれど、以前に作っておいたコピーキー(スペアキー)なら一本だけ手元にある」。そんな状況で、さらに追加の合鍵を作ることは可能なのでしょうか。技術的な観点から言えば、答えは「イエス」です。コピーキーから、さらにコピーキーを作ることは、物理的には可能です。しかし、プロの鍵屋の視点から言えば、それは「推奨されない、リスクの高い行為」となります。その理由は、一言で言えば「精度の問題」です。元鍵は、メーカーの設計図通りに作られた、最も誤差の少ない鍵です。一方、コピーキーは、その元鍵を模倣して作られたものであり、どんなに高性能なキーマシンを使っても、必ずミクロン単位の微細な誤差が生じています。そして、その誤差のあるコピーキーを元にして、さらにコピーを作るとどうなるでしょうか。誤差はさらに増幅され、元の鍵の形状からは、どんどんかけ離れていってしまいます。コピーのコピーを繰り返した書類の文字が、次第にぼやけて読めなくなっていくのと同じ現象です。その結果、出来上がった「コピーのコピーキー」は、鍵穴には入るものの、回す時に非常に固かったり、特定の角度でしか回らなかったり、最悪の場合は全く回らなかったりといった、精度の低い、いわば「出来の悪い鍵」になってしまう可能性が非常に高いのです。そして、この精度の低い鍵を無理に使い続けることには、深刻なリスクが伴います。鍵を回すたびに、鍵穴内部の精密なピンやタンブラーに過剰な負荷がかかり、それらを摩耗させ、傷つけてしまいます。これを繰り返すうちに、正常な元鍵でさえもスムーズに回らなくなり、最終的には、錠前(シリンダー)そのものが故障してしまうのです。そうなれば、もはや鍵のコピーどころではなく、数万円の費用をかけてシリンダーごと交換するしかなくなります。そのため、信頼できる鍵屋であればあるほど、コピーキーからの再コピーを依頼された際には、こうしたリスクを丁寧に説明し、それでも良いかという確認を必ず行います。もし、元鍵を全て紛失してしまったのであれば、最も確実で安全な方法は、鍵に刻印されているキーナンバーからメーカーに純正キーを注文するか、それができない場合は、鍵穴から新しい鍵を作成してもらうことです。目先の利便性のために、家の安全の根幹を揺るがすことのないよう、賢明な判断が求められます。
元鍵をなくしたらコピーキーは作れるか