一本のマスターキーで全ての部屋が開く。この基本的なマスターキーシステムを、さらに高度で複雑にしたものが、「グランドマスターキー(Grand Master Key/GMK)システム」です。これは、大規模なホテルやオフィスビル、大学のキャンパスなど、多数の部屋を、複数のグループに分けて管理する必要がある施設で採用されています。その仕組みは、まるで企業の組織図のように、鍵の権限が階層化されているのが特徴です。まず、システムの一番下の階層に位置するのが、各部屋専用の鍵である「子鍵(Change Key/CK)」です。これは、その部屋の利用者だけが持つ、特定のドアしか開けることのできない、最も基本的な鍵です。次に、その一つ上の階層に存在するのが、「マスターキー(Master Key/MK)」です。例えば、オフィスビルの一つのフロアを一部門が使用している場合、その部門の部長は、フロア内にある全ての部屋(執務室、会議室、倉庫など)を開けることができるマスターキーを持つ、といった具合です。このマスターキーは、他のフロアのドアを開けることはできません。さらに、そのマスターキーの上位に位置するのが、「グランドマスターキー(Grand Master Key/GMK)」です。これは、建物の総責任者、例えばビルの支配人やCEOなどが持つ、最上位の鍵です。この一本の鍵で、建物内にある全てのドア(全ての子鍵、全てのマスターキーのグループを含む)を開けることが可能になります。そして、施設によっては、マスターキーとグランドマスターキーの間に、さらに「グレートグランドマスターキー(Great Grand Master Key/GGMK)」といった、より上位の階層が設けられることもあります。例えば、複数のビルが立ち並ぶ広大なキャンパスで、学部長は自分の学部棟の全室を開けられるマスターキーを、学長はキャンパス内の全ての建物の全室を開けられるグレートグランドマスターキーを持つ、といった、極めて複雑な管理も可能です。この複雑な階層構造は、前述の「マスターピン」を、さらに複数組み込むことで実現されています。子鍵、マスターキー、グランドマスターキー、それぞれの鍵の形状に合わせて、異なるシアラインが揃うよう、シリンダー内部のピンが精密に設計されているのです。