鍵の動きが少し渋い、回す時に引っかかる。そんな些細な不調を感じた時、「これくらいなら、自分で油でも差せば直るだろう」と、安易に考えてしまう人は少なくありません。しかし、その良かれと思ってのDIY修理が、実は鍵の寿命を縮め、最終的には高額な交換費用につながる、最も危険な行為となり得ることをご存知でしょうか。鍵、特に鍵穴の内部は、私たちが想像する以上に精密でデリケートな機械です。そこに、間違った知識で手を出してしまうと、取り返しのつかない事態を招きかねません。DIY修理で最も多くの人が犯してしまう、そして最も致命的な過ちが、「間違った潤滑油の使用」です。鍵の滑りが悪いからと、家庭によくあるクレ556のような機械用潤滑油や、シリコンスプレー、さらにはサラダ油などを鍵穴に注入してしまうケースが後を絶ちません。これらの粘度が高い油は、一時的に滑りを良くするかもしれませんが、すぐに鍵穴内部でホコリや金属粉と結合し、粘土状のヘドロのように固着してしまいます。これにより、シリンダー内部の精密なピンの動きは完全に妨げられ、いずれは鍵が全く動かなくなる、あるいは鍵が抜けなくなるといった、より深刻なトラブルに発展するのです。鍵穴に使用して良いのは、速乾性があり、ホコリが付着しにくい「鍵穴専用のパウダースプレー」だけです。また、鍵穴に針金や爪楊枝を差し込んで、中のゴミをかき出そうとする行為も非常に危険です。鍵穴の内部構造を理解していないまま異物を突っ込むと、内部のピンを曲げたり、傷つけたりしてしまいます。ピンが一つでも変形すれば、そのシリンダーは二度と正常に機能しなくなり、交換するしかなくなります。鍵の修理は、専門的な知識と技術、そして専用の工具を必要とする、極めて専門性の高い作業です。プロの鍵師は、シリンダーを分解し、内部の構造を傷つけることなく、原因を的確に診断し、修理を行います。目先のわずかな費用の節約のために、家の安全という最も大切なものを危険に晒すことのないよう、鍵の不調を感じたら、迷わず専門家に相談すること。それが、最も安全で、結果的に最も経済的な選択なのです。
絶対にやるな!鍵のDIY修理に潜む危険